弁護士による相続相談【弁護士法人心 つくば法律事務所】

死後事務委任契約とは|活用方法や遺言との違いなどを解説

  • 文責:所長 弁護士 安藤伸介
  • 最終更新日:2025年1月7日

1 死後事務委任について

ご家族がある方が亡くなった後に、誰が身辺整理を行ってくれるのかをあらかじめ取り決めておくと、残されたお身内に迷惑をかける心配がなくなります。

一方で、身寄りのないご高齢者の方は、元気なうちに身辺整理を頼める人を見つけておくと、後々のことを思い煩う必要がなくなります。

このように生前に、亡くなった後の身辺整理などを依頼することを「死後事務委任」といいます。

お元気なうちに、信頼できる親族や専門家などに「死後事務委任」を行うことで、亡くなった後の身辺整理に関する不安が解消されます。

まずは、「死後事務委任」に関する基本的な知識を押さえておきましょう。

⑴ 亡くなった後の身辺整理などをあらかじめ依頼

「死後事務委任」とは、ご自分の生前に、亡くなった後の身辺整理などを、あらかじめ第三者に依頼しておくことをいいます。

日本に住んでいる方が亡くなると、自治体や金融機関への届出・葬儀・遺品整理など、身辺整理として膨大な事務作業が発生します。

残されたご家族は悲しみの中で膨大な事務作業に追われることになり、肉体的にも精神的にも大きな負担になってしまいます。

また、身寄りのないご高齢者の場合には、そもそも身辺整理を頼めるご家族やご親族などがいらっしゃらないため、亡くなってからも遺品や住まいが放置されたまま、というケースが少なくありません。

そこで、生前の元気なときに「死後事務委任」により、ご自身が亡くなった後の身辺整理がスムーズに行われるように手配しておくことがお勧めです。

⑵ 死後事務委任と遺言の違い

一方「遺言」は、ご自身が亡くなった後のことを生前にあらかじめ取り決めておくという点で、死後事務委任と共通しています。

しかし、死後事務委任と遺言は、以下の2点において大きく異なります。

①死後事務委任は「契約」、遺言は「単独行為」

死後事務委任は、委任者(被相続人となる方)と受任者(死後事務を行う方)の間で締結される「契約」に基づいて行われます。

したがって、死後事務委任の内容については、あらかじめ受任者の同意が存在するという特徴があります。

これに対して遺言は、遺言者の「単独行為」です。

したがって、遺言によって財産を取得する「受遺者」は、遺言内容についてあらかじめ同意しているわけではありません(なお、受遺者は遺贈の放棄が可能です(民法986条1項))。

②遺言は財産の処分に関する事項等に効力発生範囲が限定

死後事務委任においては、後述するように、身辺整理に関するさまざまな事務を委任することができます。

一方、遺言の中の記載のうち法的効力を有するのは、基本的には財産の処分や、相続人の身分確定などに関する事項のみで、死後の身辺整理を記載しても法的効力は有しません。

たとえば「Aに対して不動産Xを与える」「Bに対して遺産の3分の1を与える」などの遺言内容は、財産の処分に関する事項として有効となります。

これに対して、「Cは遺言者の身辺整理をせよ」「Dは遺言者を火葬したうえ、〇〇所在の墓地に埋葬せよ」などと遺言に記載したとしても、CやDが上記の内容の法的義務を負うわけではありません。

また仮に、遺言でCやDを遺言執行者として、かかる事項を遺言したとしても、少なくとも、CやDが死後即時に対応してくれるかどうかは未知数です。

そのため、このような内容の死後事務をあらかじめ依頼したい場合には、CやDの同意を得たうえで、死後事務委任契約を締結する必要があります。

⑶ 死後事務委任の依頼先

死後事務委任の依頼先としては、以下が考えられます。

また、親族や知人に委任することもできます。

・弁護士・司法書士などの士業

・死後事務委任を取り扱う事業者や死後事務委任専門の事業者

・各地にある社会福祉協議会 など

遺言作成及びその執行や、遺産分割協議の調整など、相続に関する手続きも一括して依頼することを考えると、弁護士に死後事務を委任するのがお勧めです。

2 死後事務委任契約の主な内容

死後事務委任契約の内容は、委任者の状況や希望などに応じてオーダーメイドに設計されるべきであり、そのパターンは多岐にわたります。

よく見られる死後事務委任契約の主な内容は、以下のとおりです。

⑴ 自治体、金融機関などへの届出事務

自治体への死亡届の提出、銀行などの金融機関での相続手続きの申請などの各種届出事務は、死後事務委任の主要な内容の一つです。

届出が必要となる機関を事前に検討し、契約中に列挙しておけば、円滑に届出事務を行うことができるでしょう。

⑵ 葬儀関係の事務

死後事務委任契約では、通夜・告別式・火葬・遺骨の埋葬などの葬儀関係の段取りも、規定することが多くなります。

葬儀に関して委任者本人の希望があれば、死後事務委任契約の中で書き込んでおくとよいでしょう。

⑶ 遺品整理の事務

亡くなった方の住居に存在する生活用品や、預貯金・証券などの資産に関する遺品整理も、死後事務委任契約の中に含めるのが一般的です。

ただし預貯金・証券などの財産は、死後、相続人がひょっこり出てきた場合にはその相続人に帰属するため、死後事務委任では、あくまでも相続人の権利実現のための「整理」にとどめるような定めが必要になります。

預貯金、証券などの財産をお持ちの方は、かかる財産の処分について別途遺言などで定めておくことをお勧めいたします。

また、遺品整理については、どこに何があるのか・どのように整理してほしいのかなどを、死後事務委任契約の中で明記しておきましょう。

⑷ 各種費用の精算事務

家賃・光熱費などの固定費は、委任者が亡くなった後も一定期間発生し、各業者から請求が行われることがあります。

その場合に、遺産の中から各種費用の精算を行うことも、死後事務委任契約の主な内容の一つです。

⑸ 親族等への連絡に関する事務

離れたところに住んでいる遠縁の親族がいる場合には、ご自身が亡くなったことや身辺整理の状況などについて連絡してほしいという希望をお持ちの方も多いところです。

その親族が法定相続人になる可能性があれば、相続手続に関する橋渡しをすることも重要になります。

その場合には、契約に定めることで、死後事務委任の受任者から、親族等に対して連絡してもらうことができます。

⑹ インターネット上の情報に関する事務

近年では、インターネットの利用に関する身辺整理のニーズも高まっており、たとえば、有料サービスに登録している場合は、亡くなった際の登録の解除が死後事務委任契約の中に盛り込まれることもあります。

また、SNSを活用している場合には、委任者が亡くなったことをSNS上で告知したうえで、一定期間の後にアカウントを削除するなどの対応が盛り込まれるケースもあります。

インターネットの利用に関する身辺整理の方法は、委任者の希望を反映する部分が大きいので、受任者と入念な打ち合わせを行うとよいでしょう。

⑺ 保有するPCの内部情報の消去などに関する事務

日常的に使用するPCには、多くの個人的な情報が含まれているため、委任者が亡くなった後には、すべての情報を削除することが望ましいことは言うまでもありません。

そのため死後事務委任契約の中では、PCデータの消去等に関する事項が事務内容として盛り込むことも考えられます。

3 死後事務委任契約を締結するまでの流れ

死後事務委任契約は、死後委任事務の内容に関する打ち合わせを行った後に、実際の締結を行います。

ここでは、死後事務委任のやり方についてご説明します。

⑴ 死後事務委任契約の内容について打ち合わせを行う

死後事務委任契約の内容は、委任者の抱える事情や希望に合わせて決定されるべきものです。

そのため、委任者と受任者の間で内容に関する入念な打ち合わせを行う必要があります。

どのような事務を死後事務委任契約に含めるべきかについては、相続手続きや死後の身辺整理に豊富な経験を有する弁護士に相談のうえでご検討されることをお勧めいたします。

⑵ 契約書の作成・締結

受任者との打ち合わせの中で、死後事務委任の内容が固まったら、実際に死後事務委任契約書を作成・締結します。

契約書の中では、死後事務委任の内容を明確に記載するほか、受任者の報酬その他の条件についても疑義のないように記載しておく必要があります。

弁護士に死後事務委任契約を依頼すれば、契約書の作成についても全面的にサポートを受けられますので、お勧めです。

⑶ 公正証書化するのがお勧め

死後事務委任契約の効力を確実なものとするためには、契約書を公正証書化しておくことをお勧めいたします。

公正証書とは、公証役場で作成される公文書です。

公正証書の作成時には、契約の有効性や文言内容の明確性などに関して、公証人によるチェックが行われます。

そのため、公正証書で作成された契約書は一般に信頼性が高いと考えられています。

また、公正証書の原本は公証役場で保管されるため、契約書を紛失する心配もありません。

特に親族を受任者として死後事務委任を行う場合には、公正証書を作成しておくメリットが大きいでしょう。

公正証書の作成方法についてわからないことがあれば、弁護士にご相談ください。

4 死後事務の弁護士費用の相場

死後事務を弁護士に委任する場合、弁護士費用は、委任する事務の内容や依頼する弁護士によって異なります。

おおむね着手金で20~30万円前後、ランニングコストとして月額数万円程度というのが、死後事務委任の弁護士費用として一般的な水準と考えられます。

事案の内容によっては、必要となる死後事務の内容を取捨選択すれば、ある程度のディスカウントが可能なこともあるかもしれません。

いずれにしても、具体的な弁護士費用の金額は、弁護士との打ち合わせ次第で決まりますので、実際に弁護士と相談してみるのがお勧めです。

5 死後事務委任についてのよくある質問(FAQ)

⑴ 死後事務委任契約は何歳から検討すればよいか

人それぞれ置かれた状況が異なることから、何歳から死後事務委任の準備をすべきかを、一概に言うことは難しいのが実情です。

もっとも、早ければ、40代・50代から検討する方もいらっしゃるようです。

ただし、死後事務委任には契約を締結する必要があり、認知症などにより意思能力を失うと、契約自体が無効になってしまいます。

そうした意味では、早めのご決断が重要になると言えるでしょう。

⑵ 死後事務委任を弁護士に依頼するメリットは何か

死後事務委任には、一部財産の処分を伴った業務が発生することがあり、遺言の内容とどちらが優先するのかが問題となる可能性があります。

法律の専門家である弁護士であれば、契約の時点でこうした問題が発生しないように様々なアドバイスを差し上げることができます。

万一こうした問題が発生した場合にも、相続手続きや死後の身辺整理に豊富な経験を有する弁護士であれば、適切に対応することができるでしょう。

さらに、弁護士であれば、相続手続きも死後事務委任と一括して依頼することが可能です。

6 まとめ

このように、生前の元気なうちに「死後事務委任契約」を行うことで、ご自身が亡くなった後の身辺整理などに関する不安を解消することができます。

死後事務委任契約はさまざまな業者が受任していますが、相続手続きなどとワンストップで依頼すると便利かと思いますので、弁護士へのご依頼をお勧めいたします。

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